この時期、インフルエンザにかかられた方の他院さんの処方を見ていると、低年齢のお子さんに吸入薬でのインフルエンザ治療薬が処方されているケースが見受けられます。

 インフルンザの治療薬に限った話ではないのですが、子どもへの吸入薬の処方はとても注意が必要です。なぜかといいますと

 子どもには吸入薬を上手に吸うことが難しい。

 これにつきます。
 喘息の治療薬で噴霧型の吸入薬を処方することがありますが、これも就学前や小学校低学年のお子さんに処方する場合は、いっしょにチャンバーという吸入補助器を買ってもらって、その中に噴霧したうえで上手に吸えるように、効果的に薬液を吸入できるように工夫したうえで行ってもらってます。

 噴霧型であれ、器具を咥えて吸い込むのであれ、タイミングや、しっかりと深く吸い込むといった行為が必要になります。これは、大人ではたやすい行為ですが、子どもにはとても難しいことです。

 実際、この調査を行った方がいまして。
 私が毎年勉強のために参加している外来小児科学会で上がった話です。
 とある薬局の薬剤師さんが、そのシーズンに処方された1回吸入タイプの抗インフルエンザ薬の、使用後器具内の薬剤残量を測量し、必要量吸入できていたかの効果判定をしたそうです。

 すると、小学校低学年以下の年齢のお子さんが使用したほとんどのもので、充分量吸入できていないと思われる量が吸引器具内に残存していたそうです。高学年になってくると、ようやくちゃんと吸えているものが増えてくるといった状況だったそうです。それくらい、吸えていない。

 これではせっかく処方した薬も、意味がないものになってしまいます。

 吸うときに深く吸い込む。
 大人がこうだよ、とやって見せても、アクションだけは真似できても、しっかり吸い込む行為までできているかは難しいものです。

 よい例がしっかり息を吐いてもらうのを診察中にお子さんにやってもらうのが、言葉だけだとどうしてもうまくできない、といったことです。だいたいアクションはおこせても、呼吸はいつも通りなことが多いです。
 小さいお子さんだと、おなかを押すことで深呼吸を再現したり、もう少し大きなお子さんだと、当院では風車を吹いてもらうといったことで深呼吸できるように工夫します。
 
 これらをふまえたうえで。
 1回の吸入ですむ、一発勝負の抗インフルエンザ薬をお子さんに処方することはどうなのでしょうか。せっかく処方するなら、しっかり効果的に摂取できるものが良いと私は考えます。

 一回吸入するだけでよい、確かに簡単で便利という利点は認めます。ただ、子どもへの処方にはどうしてもデメリットが多いと思います。 大人でも、咳などの呼吸器症状の強い方への処方は厳しいと感じます。

 お子さんに複数回、普段飲まないようなおくすりを飲ませる大変さは重々承知しておりますが、せっかくお薬を使ってもらうなら、うまくできるかどうか賭けになってしまうものより、ちょっと大変だけど何回にも分けて効かせるタイプがいいと考えて処方しております。飲ませるのに1回失敗しても、次をちゃんと飲めたらよい、という点もあります。

 参考までに、小児科学会が次のようなガイドラインを出しております。

 2025/26 シーズンのインフルエンザ治療・予防指針

 
 オセルタミビル *バロキサビル
マルボキシル
**
ザナミビル
***
ラニナミビル
***
ペラミビル
新生児・乳児(1歳未満)推奨積極的には推奨しない(B型については本文参照)推奨しない(吸入困難)懸濁液は吸入可能、推奨については本文参照左記4剤の使用が困難な時に考慮する
幼児(1歳から5歳)多くの場合は吸入困難

小児(6歳から11歳)

A型には慎重に投与する。B型には使用することを提案する。吸入可能な場合に限り推奨
小児・思春期小児(12歳以上)****

A・B型共に推奨

(本文参照)
推奨
呼吸器症状が強い・呼吸器疾患のある場合重症例についてはエビデンスが不足している

要注意

(重症例についてはエビデンスが不足している)

一般名で書かれていますので、商品名に直すと

 オセルタミビル(タミフル®)
 ザナミビル(リレンザ®)
 ラニナミビル(イナビル®)
 ペラミビル(ラピアクタ®)
 バロキサビル マルボキシル(ゾフルーザ®)

となります。本文参照、と書かれたものにつきましては、先ほどのリンクを参照してください。

また、表の下部に注釈がありますが、抗インフルエンザ薬と異常行動についての記載もあります。常々お話していますが、タミフルの服用で異常行動を起こすのではなく、抗インフルエンザ薬の服用の有無にかかわらず、インフルエンザ罹患時は異常行動を発現することがある、ともあります。タミフルはちょっと…と言われることがまだありますが、服薬とは関係なく起こりえますので、書かれているとおりインフルエンザ罹患時には少なくとも少なくとも発熱から2日間、保護者等は異常行動に伴って生じる転落等の重大事故に対する防止対策をとるようにしてください。


 ぶっちゃけた話、抗インフルエンザ薬は使わなくてもインフルエンザは治ります(ガイドラインにも『一方で、多くは自然軽快する疾患でもあり、抗インフルエンザ薬の投与は必須ではない。』とありますね)。
でも使うからにはちゃんと効いてほしい、そう願って処方しています。